1. ホーム  > 
  2. スタッフブログ  > 
  3. お屠蘇と屠蘇散と漢方の知恵

お屠蘇と屠蘇散と漢方の知恵

お屠蘇と屠蘇散と漢方の知恵
ソンバーユ試験研究室の漢方薬・生薬認定薬剤師、コスメコンシェルジュ久保田が担当です。
新年を迎える際に欠かせないものの一つに、お屠蘇があります。
お酒をベースに屠蘇散と呼ばれる漢方生薬を浸け込んだ薬草酒は、邪気を払い、一年の無病息災を願うための伝統的な飲み物です。
今回は、このお屠蘇と屠蘇散にまつわる歴史や雑学を、漢方の視点から掘り下げていきます。


お屠蘇のルーツと歴史
お屠蘇の起源は、中国にまで遡ります。諸説ありますが、後漢書や三国志にもでてくる名医・華佗が考案したといわれています。華佗は後漢末期の伝説的名医で麻酔薬を用いて、開腹手術や脳手術をしたとも伝えられ、曹操の侍医となったが、その怒りに触れて殺されたと語られています。
その後この原型が正月の縁起物として飲まれるようになったのは唐の時代からと考えられています。
581年唐時代の医者 孫思獏が記した『備急千金要方』(千金方)に屠蘇酒の名称が記述として登場し、その伝承では風邪の予防のために屠蘇を調合、年末にそれを知人に贈ったことから世に知られたとも。その際にお酒に浸して飲用したことから屠蘇散そのものを彼が考案したとの見方もあります。数種類の生薬を調合して利用するこの習慣は、平安時代には日本に伝わり、宮中行事として定着しました。その後、江戸時代になると庶民にも広まり、現在に至るまでお正月の風習として親しまれています。

「屠蘇散」の中身は、いわゆる漢方薬に使われる生薬です。多くて10種類、市販されている屠蘇散は、5~6種類が配合されています。調合は、地域や家庭によって様々です。
明代の李時珍著 本草綱目にでてくる屠蘇散の処方は、赤朮・桂心・防風・抜契・大黄・桔梗・烏頭・赤小豆などです。それを赤い三角に縫った袋に入れて年末の除夜に井戸の内側にかけ、その後元旦に取り出して酒の中に入れてわかした煎じたものを、家族みんなで東に向かって、年少者から年長者の順に飲みます。屠蘇散の煎滓(せんじかす)は井戸へ投げ入れ、この水を飲めば一年間無病であるといわれたそうです。ですが時代とともに烏頭(トリカブト)や瀉下作用(下痢)を伴う大黄は、激しい作用を伴うことから除かれるようになり、特に戦国時代から安土桃山時代の医師 曲直瀬 道三が庶民の安全を考えて、性質の強い生薬を取り除いた処方を考案したことで、江戸時代に親しまれるようになり現代まで受け継がれたのかもしれません。
これらの生薬には、それぞれ異なる薬効があり、組み合わせることで、体を温め、邪気を払い、消化を助けるなどの効果が期待できます。

代表的な生薬と、その効能には次のようなものがあります。
現代では防風あるいは浜防風、山椒(あるいはその実の蜀椒)、白朮(オケラの根)、桔梗(キキョウの根)、桂皮(シナモン)、丁子(クローブ)、陳皮(ミカンの皮)などを用いるのが一般的です。

生薬名
防風(ボウフウ) 部位:セリ科ボウフウの根 適用:発汗・解熱作用、抗炎症作用
山椒(サンショウ) 部位:サンショウの実 適用:芳香性健胃作用、抗菌作用
白朮(ビャクジュツ) 部位:オケラまたはオオバナオケラの根 適用:利尿作用、健胃作用、鎮静作用
桔梗(キキョウ) 部位:キキョウの根 適用:鎮咳去啖作用、鎮静・沈痛作用
桂皮(ケイヒ) 部位:ニッケイの樹皮、シナモン 適用:芳香性健胃作用、矯味矯臭、鎮静作用
陳皮(チンピ) 部位:ウンシュウミカンの果皮 適用:芳香性健胃作用
丁子(チョウジ) 部位:クローブの開花前の蕾 適用:保温作用、芳香性健胃薬、鎮痛作用
人参(ニンジン) 部位:オタネニンジンの根 適用:強壮強精・消化促進・強心・保温作用



お屠蘇を飲む意味
お屠蘇を飲むことには、どのような意味が込められているのでしょうか。
邪気を払い、無病息災を願う: 屠蘇散に含まれる生薬の薬効によって、邪気を払い、一年を健康に過ごせるようにと願う意味が込められています。
長寿を願う: 古くから、長寿の薬として考えられてきた生薬が配合されていることから、長寿を願う意味も含まれています。
家族の健康を願う: 家族みんなで揃って屠蘇を飲むことで、家族の健康を願う気持ちを表しています。


お屠蘇の飲み方と作法
お屠蘇の飲み方にも、いくつかの作法があります。
年少者から順番に飲む: 年少者から順番に盃を回し、長寿を願います。
三回に分けて飲む: 一年の無病息災、家内安全、万事如意を願い、三回に分けて飲みます。
屠蘇器を使う: 屠蘇器と呼ばれる専用の器を使って飲むのが一般的です。


お屠蘇と現代
現代では、屠蘇散を自分で調合する人は少なく、市販の屠蘇散を日本酒に浸けて飲むことが多いです。また、屠蘇散の代わりに、みりんや焼酎に浸ける方もいます。


まとめ
お屠蘇は、単なるお酒ではなく、漢方の知恵が詰まった伝統的な飲み物です。屠蘇延命散ともよばれ、邪気を払い、一年の無病息災を願うという、古くからの願いが込められています。現代においても、お屠蘇を飲む習慣は、家族の絆を深め、伝統文化を継承する上で大切な役割を果たしてくれるのではないでしょうか。



ソンバーユ株式会社
試験研究室
コスメコンシェルジュ
薬剤師 久保田