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治すのは自分

治すのは自分
梅雨時、関西圏の郊外住宅地にあるデパートでの出来事です。

そのお客様は背がすらっとなさったご高齢の女性で、「私、これが欲しいの」と当社のブースを目がけてお越しになりました。

中身がきれいになくなった、ソンバーユ無香料のサンプルの容器を手に持ち、こちらにお見せくださいました。

「これね、他のデパートでお宅が出店してる時にもらったの。
ずっと買いに行きたかったけど、行けなくなってしまってね」とお話になります。

その樹脂でできた空容器を良く見ると、底の少し上が切れているのが分かりました。
それは、中身の馬油を最後の最後まで使い切る時に稀に鋏を入れる方がいらっしゃり、それと分かるものでした。

こうしてしっかり使い切ってくださったことに、販売員として感謝の気持ちを抱きながらお話を聞いていると
「サンプルをもらって、すごく良かったからすぐ買いに行きたかったんだけど、歩けなくなってしまって…」とおっしゃいます。

さらに
「90歳を超えてから、1年半も車椅子生活を送って…」とも。

高齢の方が500日以上も歩けず車椅子での生活を余儀なくされれば、寝たきり生活になってもおかしくありません。

お客様は
「人一倍、足腰が丈夫でいることに気を配ってきたけど、急激に足の筋力が衰え始め、歩けなくなったのよ」
「それが小さい頃の首の手術が原因とようやく分かり、治療とリハビリを続けたの」と。

今は平然とおっしゃいますが、その苦労を思うと想像を絶します。


そして、しっかりした立ち姿で、花柄の爽やかなグリーンのパンツスーツがとてもお似合いでした。
袖は少し開き、風通しが良く涼しそうに見え、袖が凝ったデザインだったので思わず「素敵なお洋服ですね」と声をかけると

お客様は
「この服、自分で作ったのよ。若い時に洋裁も和裁も勉強してたから。襟はね、子供の洋服のフリルを外して着けたの」
とおっしゃって、こちらが目を丸くしていると
「こう見えても趣味がたくさんあって。山登りが大好きで、世界66カ国を行っていろんな山を登ったわ」

え~と驚くと同時に、足腰に気を配ってきたとおっしゃる理由の一つが垣間見られ
「富士山には何度登ったんですか」と尋ねると
「5回登ったわよ」とはっきりと即答なさいます。

「この歳になってから、まさか歩けなくなるなんて、本当に思いもよらなかったわ。足腰だけじゃなくて健康には気を付けてきたわね。骨粗鬆症が心配と言われ薬を勧められたけど飲まずに、食事と運動で管理しようと決めて、これからも頑張るの」

お客様の表情や身振り手振りから、芯が強く、恢復までの苦労は微塵も感じさせず、とてもはつらつとなさっている。
こうして自分の足で歩けるまでになったのは、気持ちの強さと行動力あってこそ。と感じ入りました。

お買い求めくださったソンバーユを引き渡し、精算する時に領収書のご依頼があったので宛名はいかがいたしましょうかと伺ったところ、
「〇〇クリニックで」とのこと。

そして
「実はね、私、医者なの」と。

『だから医者の薬を飲まない』そんな書籍がありますが
“なるべく薬に頼らないで食事、運動で健やかに過ごす”

こうしたことは、むしろ医学の知識が豊富でだからこそ、なのかも知れません。

おそらく、ご自身が90歳になって歩けなくなったことが、幼少の頃の手術が原因などとは、この方や担当医もすぐに判明せず、必死に探り続けた結果でしょう。
再び歩けるようになったのは、この方がお医者様だったからとは私には思えません。

歩けるようになりたいことを担当医に熱意をもって丁寧に伝え、担当医も何とかしたいと真剣に原因の特定と治療法を考え、お客様自身が“病は自分で治すもの”と治療に専念し、リハビリに必死に取り組んだからでしょう。

私たちの医学的な知識は、今回のお客様の足元にも及びませんが、歩きたい、病気を治したいという強く思うのは私たち自身です。

今回のお客様からは誰しもが突発的なトラブルや病などに遭遇することがあり、その時の向き合い方が大事であることを学ばせてもらいました。
関西のデパートをいくつか巡って、ようやくソンバーユを販売しているところを見つけお越しくださったそうです。

「ソンバーユがどうしても欲しかった」「やっと買いに来ることができた」「本当に良かった」とおっしゃってくださりとても嬉しかったです。

今後は、私が担当でないデパートにお越しになる予定で再会はかなわないかもしれませんが、素晴らしい出会いに感謝し、お客様のような齢の重ね方をお手本にしてまいりたいと思います。



株式会社薬師堂
催事スタッフ
橋本 智恵子